店の戸を開くと、いつもの客が来ていた。

着古した安いスーツのサラリーマン。

いつもの絵の前に案内すると、男は赤いドレスの女の絵を飽かず眺めていた。絵の値札に並ぶゼロを見下ろし、男が深いため息をつく。

「この絵のモデルはね、画家に殺されたらしいんです。特殊な薬を飲ませてから、その子の血で絵をかくと、いい赤が出るって言ってね」

私は男の隣に立ち、その話を教えた。

男は驚き私を見た。

「本当ですか?」

「まさかですねえ。そんなものとても売れやしません。そのくらい魂がこもった絵だということでしょうね。いい絵でしょう?」

男は話を聞きながら、濡れた目でこちらを見ている絵の女と見つめ合っていた。

「この絵を買います。何もかも売って」

男は金を作ると約束して、店を駆け出していった。

売約済みの札を絵に貼りながら、私は赤いドレスの女に話しかけた。

「よかったな、買ってもらえて。次は幸せになるんだぞ」

絵の中で、女が泣いていた。

――完――